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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)7343号 判決

原告

関西中央タクシー株式会社

被告

安田火災海上保険株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金一九三万二四七七円及びこれに対する平成五年一二月四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金二一七万円及びこれに対する平成五年一二月三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故の被害者に損害賠償金を支払つた原告(被保険者)が、原告と自動車損害賠償責任保険契約を締結している被告(保険者)に対し、自賠法一五条に基づき後遺障害分の保険金を請求した事案である。

一  争いのない事実など(証拠摘示のない事実は争いのない事実である。)

1  自動車損害賠償責任保険契約の存在

(一) 証明書番号 R九九三七七二五―三

(二) 保険期間 昭和六四年一月一七日から同年一二月一七日まで

(三) 保険者 被告

(四) 保険契約者 原告(ただし、旧社名第一交通株式会社)

(五) 被保険者 原告及びその従業員

2  被保険事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 平成元年七月一九日午後四時一〇分ころ

(二) 場所 大阪市住之江区北島一―二―二九先路上交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 事故車両

(1) 原告従業員訴外清水孝志運転、訴外過部ひろ子(以下「訴外過部」という。)同乗の普通乗用自動車(タクシー)(なにわ五五い二〇三三号)(以下「原告車」という。)

(2) 訴外鴨下高司運転の普通貨物自動車(和泉四〇ま三五六八号)(以下「鴨下車」という。)

(四) 事故態様

直進の鴨下車と対向の右折の原告車が衝突した。

3  訴外過部が原告外二名を相手として本件事故を原因とする損害賠償請求訴訟を提起したところ(大阪地裁平成三年(ワ)第一二三一号・以下「前訴訟」という。)、同裁判所は、平成五年九月一七日、訴外過部には本件事故による後遺障害として自賠法施行令第二条別表の後遺障害別等級表(以下、単に「等級表」という。)一二級程度に該当する腰部痛、股関節痛が残り、原告外二名は訴外過部に対し各自金四〇八万四六二九円及び本件事故日からの遅延損害金を支払えとの判決(以下「前判決」という。)を言い渡し、右判決は、平成五年一〇月一日の経過をもつて確定した。

4  原告は、訴外過部に対し、平成五年一〇月二九日、確定した前判決に従い、元本及び遅延損害金合計四九四万七四三六円を支払つたため(甲二)、被告に対し、同年一二月三日、一二級後遺障害分の保険金二一七万円の支払を請求した。しかし、被告は訴外過部に後遺障害は認められないとして右支払を拒否した。

二  争点(訴外過部の後遺障害の有無、内容及び程度並びに本件事故との因果関係)

1  原告の主張

本件事故は、鴨下車が時速五五キロメートルの速度で原告車左前後ドア付近に激突し、原告車と鴨下車が大破したほか、原告車の左後部座席に同乗していた訴外過部も左肋骨骨折などの傷害を負つたというものであるから、シートベルトをしていなかつた訴外過部が、強度の横向きの衝撃を左腰部、左下肢などにも受けたために前判決が認定した等級表一二級相当の後遺障害が生じた蓋然性が極めて高い。そして、訴外過部の腰痛は、カルテによると本件事故から一か月強経過した平成元年九月中旬ころから出現しており、左下肢痛、股関節痛も本件事故から少なくとも四か月強経過した平成元年一二月ころに出現しているのであつて、これらの出現時期は、当初、訴外過部は肋骨骨折の痛みがひどかつたため右疼痛を意識できなかつたことを考えれば何ら不自然ではない。また、訴外過部の担当医矢木崇善医師(以下「矢木医師」という。)は診断書やカルテに外傷性坐骨神経症と記載し、坐骨神経痛の治療費も請求しているのであるから、訴外過部が外傷性坐骨神経症であつたことは明らかである。そして、訴外過部の右障害は、本件事故によつて生じた可能性が高い椎間板突起、臼蓋形成不全、筋電図上の異常という他覚的所見によつて裏付けられているのであるから、等級表一二級に該当するというべきである。仮に、右他覚的所見が本件事故により生じたものではないとしても、後遺障害認定のための他覚的所見は必ずしも事故により生じたものに限られず、先天的あるいは後天的素因が背景にある場合も、一応それらの素因を後遺障害の症状の他覚的所見として後遺障害を認定すべきであるから、やはり、等級表一二級に該当するというべきである。

2  被告の主張

(一) 訴外過部の腰部痛、股関節痛などの障害は本件事故によるものではない。

(1) 訴外過部の受傷当時の傷病名は左肋骨骨折、両肩・頭部挫傷であり、腰部・左股関節・左下肢などにつき何らかの傷害を負つた事実は認められず、また、カルテ上、訴外過部が腰部痛、左下肢痛(股関節痛)を訴え始めたのは、本件事故後約半年を経過したころであつて、仮に、訴外過部が入院中は腰痛などを感じることが困難であり、日常生活に復帰してから右疼痛が出現したものと想像したとしても、訴外過部は退院時は歩行良好であつたから、やはり、右障害が本件事故によるものとは考え難い。

(2) 前判決は、本件事故と右障害の因果関係を肯定しているが、右判決においては右障害の原因が医学上全く特定されておらず、本件事故と右障害の因果関係は未だ高度の蓋然性を伴つた証明がなされていないと言わざるを得ない。すなわち、前判決は、訴外過部の第四・第五腰椎間、第五腰椎・仙椎間に認められる軽度の椎間板突起につき、そもそも、本件事故によるものか不明というだけでなく、訴外過部の腰痛の原因が右椎間板突起によるものかも不明というにもかかわらず、本件事故により腰痛が生じていると安易に認定している。そもそも、右軽度の椎間板突起によつて押さえられる神経は第五腰神経と第一仙骨神経であるところ、その症状は、前者については「お尻から大腿、膝から下の外側、それから足の背中側から親指の間あたり」に神経症状が発現し、後者については「かかとから足の裏にかけて」痺れ、痛みなどの神経症状が発現するにもかかわらず、訴外過部に右症状は認められていないのであるから、結局、訴外過部の腰部痛の原因は前記椎間板突起とは無関係であつて、腰部痛の原因は不明(前記の訴外過部の症状発現時期からすると本件事故とは無関係であるというべきである。)と言わざるを得ない。

また、前判決は、訴外過部の股関節の臼蓋形成不全を認定しているが、右臼蓋形成不全はボーダーライン上にあり、専門医でも判断が分かれる程度のものであるのに、医師の証言だけで不全と決めつけており、早計の感を免れない。

さらに、訴外過部の坐骨神経痛について言及すると、坐骨神経痛が診断書及びカルテ上に現われたのは、いずれも本件事故から半年以上経過した平成二年一月あるいは三月であつて極めて発現時期が遅く、通常、坐骨神経痛はヘルニアの場合に認められるが、ヘルニア患者は下肢伸展挙上テストにおいて正常範囲の結果を出すことが困難であるのに、訴外過部の右テストの結果は正常範囲であり、さらに、矢木医師が後遺障害診断書において坐骨神経痛を記載しなかつたことも考慮すれば、訴外過部には坐骨神経痛が認められないか、認められたとしてもその程度は決して大きなものではなかつたことが明白である。

以上のとおりであるから、訴外過部の前記障害と本件事故の因果関係は未だ証明されていないと言わざるを得ない。

(二) 仮に一歩譲つて訴外過部の前記障害が本件事故に基づくものであつたとしても、その程度は等級表一四級にとどまる。すなわち、一二級の後遺障害が認められるためには、少なくとも当該神経障害が本件事故に基づいて発生した何らかの他覚的所見に裏付けられている必要があるが、訴外過部の前記障害の原因となりうる他覚的所見は腰椎椎間板突起及び股関節の臼蓋形成不全であり、いずれも本件事故により生じたものではないのであるから、結局、訴外過部の後遺障害は一二級に該当せず、せいぜい一四級に該当するにすぎない。

第三争点に対する判断

一  訴外過部の後遺障害の有無、内容及び程度並びに本件事故との因果関係について

1  証拠(甲一、三の1ないし8、四の1ないし3、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一) 本件事故態様など

本件事故は、訴外鴨下高司が鴨下車を運転して本件交差点を時速約五五キロメートルの速度で直進しようとしていたところ、前方二四・二メートルの地点に前記交差点を右折しようとしていた対向の原告車を認めて危険を感じ、ハンドルを左に切るとともに急制動の措置を講じたが及ばず、自車の前部を原告車の左側面に衝突させたため(本件事故現場には、鴨下車の左前輪一一・八メートル、右前輪九メートルの各スリツプ痕が残つた。)、鴨下車に前スカート、バンパー及びパネル凹損、右前ドアー曲損、右前ドアーガラス割れなどの各損傷が、原告車に左前後ドアー凹損(原告車の前より後方へ一・九五メートルから三・四五メートルの間)、左前ドアーガラス割れなどの各損傷が生じるとともに、原告車の後部左座席に同乗中の訴外過部が左肋骨骨折、両肩・頭部挫傷、頸椎捻挫などの傷害を負つたというものである。

(二) 訴外過部の症状内容及び治療経過など

訴外過部(本件事故当時四五歳)は、本件事故後、矢木外科病院において、傷病名「左肋骨骨折、両肩・頭部挫傷」、四週間の通院加療(四週間の休務加療)を要する見込みと診断され、その後一時帰宅したが、呼吸困難を訴えて平成元年七月一九日二三時二五分同病院にて救急診断を受け、胸部CT検査の結果、胸膜炎を併発していることが判明し、そのまま同病院に入院した(傷病名は「左肋骨骨折、両肩部・頭部挫傷、外傷性胸膜炎、呼吸困難、頸椎捻挫」に変更された。また、レントゲン検査の結果、左第五、第六肋骨骨折が認められたが、頭部、両肩、胸部、頸椎に異常は認められなかつた。)。なお、矢木医師は、訴外過部の症状が心因的なものによることも考慮し、七月二九日、三〇日、翌八月一日から五日まで偽薬(乳糖)を投与して様子をみたが、八月二日に一度頭痛が消失したものの、その後は頭痛は軽減こそすれ消失することはなかつた。

八月一二日、訴外過部は外傷性胸膜炎、呼吸困難が治癒し、症状も軽快したため退院となつたが、胸部痛、項頸部痛のため、引き続き通院してリハビリ治療することになり、その後、胸痛、項部痛、大後頭神経圧痛、小後頭神経圧痛、両手のしびれ、全身倦怠、強度の背部痛などの諸症状を訴えた。また、同年九月一四日には、外傷性微熱症候群が診断名に付加されたが、その後、微熱は徐々に三六度台に低下した。

同年一〇月以降も、訴外過部は頭痛、両肩痛、頸項筋肉痛、右手しびれ、右大後頭神経痛、右肩甲上神経痛などを訴え、内服・注射外用治療、両肩部電気刺激療法などが施されたが、症状軽快には至らなかつた。また、同年一一月二一日には頸椎部のCTスキヤン検査が行われたが、異常はみられなかつた。

同年一二月、訴外過部は下部頸椎痛、手しびれ感、頭痛などのほか、腰痛や左大腿部痛などの症状を頻繁に訴えるようになり、歩行が困難になつたり、事務仕事に支障が生じたりするようになつた。

平成二年一月二三日、傷病名に外傷性坐骨神経痛が付加され、腰痛、左大腿痛、両手しびれ感、項部痛が常時みられるようになり、仕事は不可能な状態で、リハビリ、注射、服薬治療が施された。また、翌二月には頸椎のMRI検査が行われたが、異常は認められなかつた。

翌三月以降も、訴外過部は頭痛、四肢関節痛、両肘から手部のしびれ、右背腰痛、両大腿倦怠感、頸部から腰部にかけての痛み、うつむくと視力低下などの種々の症状を訴え、リハビリ治療が続けられるとともに注射処方もなされた。

同年五月、訴外過部は頸部、背部、腰痛、左下肢しびれ感などを訴えたが、カルテの同月一一日には心因性痛を疑う記載、同月二九日には「心因性坐骨、MRI、CT、レントゲンすべて異常なし」との記載がなされていた。

同年六月、訴外過部は腰痛が軽快したが、一〇分間起立すると両下股がだるくなり、両上肢のしびれもみられ、翌七月は、左腰痛、頸部痛、左胸部痛を訴えた。しかし、翌八月には症状が徐々に固定したものと診断され、治療中止となつた(通院期間三八四日、実通院日数二七〇日)。

(三) 矢木医師は、後遺障害診断書に、傷病名「左肋骨骨折、両肩・頭部挫傷」、自覚症状「常時左頸部、左下肢にかけて疼痛、時に右股関節痛がみられる。日中、左胸部・両肩・右上肢痛がみられ、書字、台所仕事、洗面、排便等の日常生活に重大な支障を認める。トイレ、排便に不自由」、他覚症状「元年七月一九日、頭部・両肩・胸部レントゲンで左五、六、七肋骨に骨折がみられ、同日夜呼吸困難で入院。肺CT異常認めず。八月一二日退院。一一月二一日頸椎CT異常認めず。左肋骨は九月六日レントゲンで骨癒合完了。両手感覚鈍麻、頸椎可動域良好、両肩可動域良好、平成二年二月二三日の頚椎MRIでは異常認めず」とそれぞれ記載し、右症状の改善の見込みなしとして、平成二年八月三一日症状固定したと診断した。

(四) 前記病院の川満政之医師(以下「川満医師」という。)は、平成三年七月四日、訴外過部の症状につき、傷病名は左肋骨骨折、頸椎捻挫、外傷性坐骨神経痛であり、平成元年一一月ころ、左股痛が出現し、レントゲン検査をしたところ、両股関節の臼蓋形成不全を認め、これは事故以前より存在したものであるが、事故による腰痛、胸部痛等により股関節への負担が大きくなり、症状を呈してきたという可能性を否定できない旨の所見を示した。

そして、同医師の指示による平成四年八月一九日の藤田病院での腰椎部MRI検査では、訴外過部の第四・第五腰椎間、第五腰椎・仙椎間に軽度の椎間板突起がみられ、第四・第五腰椎間では右側の椎間孔が、第五・仙椎間では左側の椎間孔がそれぞれ軽度狭窄していることが認められ、同医師は、同部を通過する神経根を圧排する可能性を否定できないとの所見を示した。

(五) 訴外過部は、平成四年七月当時も、腰部・右股関節痛の痛み、左右膝下の痺れといつた症状を訴えていた。

(六) 川満医師は、前訴訟の証人尋問において、訴外過部の症状につき、訴外過部の股関節の臼蓋形成不全はボーダーラインであるが、腰痛をかばうため股関節に悪影響がでて、さらに股関節をかばうため腰に負担がかかること、腰痛の原因は腰椎椎間板が突出して神経根を圧迫したためであることをそれぞれ証言した(なお、同医師は、腰椎椎間板突出の原因は外力によるものが多いとも証言したが、訴外過部の腰椎椎間板突出が本件事故によるものか否かは不明であると証言した。)。

2  右認定事実を総合すれば、訴外過部は、本件事故により左肋骨骨折などの傷害を負うほどの衝撃を体に受け、本件事故後しばらくは項部痛、胸部痛などを訴えていたが、事故から約五か月経過したころから腰部痛や左大腿部痛なども頻繁に訴えるようになり、その後もほぼ継続的に右症状を訴え、平成二年八月三一日当時は常時左下肢疼痛などがある旨、本件事故から約三年経過した平成四年七月当時は腰部痛、右股関節痛、左右膝下の痺れがある旨それぞれ訴えていることが認められるが、前記認定の川満医師の所見を総合すれば、右症状は、本件事故による腰痛、胸部痛などにより、既往症の臼蓋形成不全(ただし、不全といえるか微妙な程度なもの。)が影響して股関節への負担が増し、その負担を軽減させるために腰にも負担がかかり、その結果、経年性の腰椎椎間板突起(右腰椎椎間板突起が本件事故によつて生じたものと認めるに足りる証拠はなく、訴外過部の年齢を考慮すると経年性のものと推認される。)が原因となつて出現した可能性が高く、本件事故前から訴外過部が右症状を呈していたとの事情は窺えないことも併せ考えると、訴外過部の腰痛、股関節痛、左右膝下の痺れは本件事故によつて生じたものと認めるのが相当である(なお、前記後遺障害診断書には腰痛の記載がないが、前記認定した過部の症状の推移などに照らせば、これは右判断を妨げる理由とはならない。)。

そして、前記認定の事実によれば、右症状は、訴外過部の主訴に基づくだけでなく、それを裏付ける他覚的所見が存在し(本件事故と第四・第五腰椎間、第五腰椎・仙椎間の軽度の椎間板突起と臼蓋形成不全とが相俟つて右症状が発生した。)、また、右症状により訴外過部は、症状固定したと認められる平成二年八月三一日ころ(前記認定の訴外過部の治療経過、症状の内容などに照らせば、右時期をもつて症状固定したものと認められる。)、台所仕事などに重大な支障が生じていたのであるから、訴外過部の前記症状は、局部にがん固な神経症状を残すものとして等級表第一二級一二号に該当するというべきである。

被告は、主として、訴外過部が右障害を訴え始めた時期が遅かつたこと、右障害の原因が医学上全く特定されていないことを理由に本件事故との因果関係を否定するが、前記認定事実に照らして採用できない。

また、被告は、一二級を認定するためには少なくとも当該神経障害が本件事故に基づいて発生した何らかの他覚的所見によつて裏付けられている必要があると主張する。

しかし、ここで必要とされる他覚的所見とは、その自覚症状を裏付ける医学的証明をいうのであつて、前記認定のとおり、訴外過部の後遺障害の症状には、これを裏付ける他覚的所見が存在するのであるから、被告の右主張は理由がない。

二  後遺障害分保険金の算定(計算額については円未満を切り捨てる。)

1  後遺障害逸失利益 一八六万四九五五円

前記認定の訴外過部の後遺障害の内容、程度などを考慮すれば、訴外過部は、症状固定時と認められる平成二年八月三一日ころから五年程度、労働能力を一四パーセント喪失したものと認めるのが相当であるところ(なお、甲一によれば、前判決は訴外過部の労働能力喪失期間につき一〇年と認定されているが、前記認定事実を前提とすれば五年に限るのが相当である。)、甲一によれば、訴外過部は、本件事故当時、金融業大豊商事の店長、初田建設の代表取締役として稼働していたことが認められ、本件事故がなければ、右症状固定時から五年間にわたつて、少なくとも平成二年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計の四五ないし四九歳女子労働者の平均賃金である三〇五万二五〇〇円の年収を取得できたものと推認される。よつて、中間利息の控除につき新ホフマン係数を用いて訴外過部の後遺障害逸失利益を算定すると次のとおりとなる。

三〇五万二五〇〇円×〇・一四×四・三六四=一八六万四九五五円

2  後遺障害慰謝料 二〇〇万円

前記認定の訴外過部の後遺障害の内容、程度その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、後遺障害慰謝料は二〇〇万円を相当と認める。

3  寄与度減額

前記認定事実によれば、訴外過部の後遺障害は、既往症である臼蓋形成不全及び経年性の腰椎椎間板突起とが大きく影響していることが明らかであり、また、前記認定の訴外過部の治療状況、症状の経過、担当医師の診断、所見、処方などの事情を総合すれば、訴外過部の心因的要因が後遺障害を増悪させた可能性を否定できないというべきであるから、損害の公平な分担という損害賠償の理念に照らし、民法七二二条二項を類推適用して、その損害額の五〇パーセントを減額するのが相当である。

4  以上によれば、右合計額は一九三万二四七七円となるが、これは本件事故当時の自賠責保険の後遺障害等級一二級による保険金額の限度額である二一七万円以内であるから、被告は右一九三万二四七七円を支払う義務を負う。

三  結語

よつて、本訴請求は、後遺障害分の保険金一九三万二四七七円及びこれに対する原告が被告に請求した日の翌日である平成五年一二月四日から商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由がある。

(裁判官 松本信弘 佐々木信俊 村主隆行)

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